ケーススタディ(一般論)

米国ゼロクーポン債(トレジャリーストリップス)の贈与税評価
発行価額のない割引債は、通達の算式ではなく実勢価格で評価できるか

国内の証券会社で購入した米国財務省証券のストリップス債(分離元本債)を贈与する場面を想定し、財産評価基本通達197-3(割引発行の公社債の評価)の算式がそのまま当てはまるのか、証券会社の参考時価(実勢価格)で評価してよいのかを、通達の原文・国税庁の質疑応答事例・相続税法22条・最高裁判決・裁決例から整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、銘柄の種類・保管口座の種別・贈与の方法・贈与者と受贈者の住所や国籍を確認したうえで行う必要があります。数値は説明のための設例です。法令・通達・判例は令和8年10月8日現在のものを確認しています。外部リンクはすべて別タブで開きます。

ご相談の内容

相談の要旨(個人・法人を特定する情報は除いています)

国内の大手証券会社で購入した米国のゼロクーポン債(米国財務省証券のトレジャリーストリップス)を贈与したい。
財産評価基本通達197-3では、上場でも売買参考統計値の公表銘柄でもない割引債は、
「発行価額に、券面額と発行価額との差額のうち既経過期間に対応する金額を加算した金額」で評価するとされている。
この算式に買付単価を当てて試算すると約9,400万円になるが、
証券会社が示す課税時期の参考時価は約6,500万円と、約2,900万円低い。
実勢の相場が分かっているので参考時価で評価したいが、贈与税の評価上問題はあるか。

結論

結論の要旨
  1. 証券会社の参考時価(実勢価格)を基礎に評価することは、贈与税の評価上問題ないと考えられます。
    むしろ本件では、それが通達に沿った評価になります。
    トレジャリーストリップスには「発行価額」が存在しないため、197-3(3)の算式を文言どおりには適用できず、
    財産評価基本通達5-2(国外財産の評価)の「この通達の定めによって評価することができない財産」として、
    売買実例価額・精通者意見価格等を参酌して評価する財産に当たると整理できます。
  2. 買付単価と受渡日を算式に当てた約9,400万円は、通達の算式そのものではありません。
    取得価額を直線で額面へ近づけるだけで市場金利の変動を反映せず、客観的交換価値を約45%上回ります。
    この金額で申告すると、相続税法22条の時価を上回る過大申告になるおそれがあります。
  3. 否認リスクは低いと見ていますが、ゼロではありません。
    参考時価で申告する場合は、価格の性質(買取価格か仲値か)と課税時期を証券会社の書面で固め、
    評価の根拠(相法22条、評基通1(2)・5-2、最高裁令和4年4月19日判決)を添付資料として整えておくことを勧めます。

評価方法の比較(設例)

額面200万ドル、買付単価26.4(買いコスト込み)、課税時期の参考時価20.6、TTB157円の設例です。
受渡日から課税時期まで約510日、受渡日から償還期限まで約10,880日とします。

買付単価・受渡日起点の直線按分約9,370万円
同上から源泉所得税相当額を控除約7,780万円
参考時価(実勢価格)による評価約6,470万円
評価方法位置づけ評価としての妥当性
参考時価(実勢価格)
20.6×20,000=412,000ドル×157円
評基通5-2本文の「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌」に当たる。発行価額のないストリップス債では、これが通達に沿った評価と考えられる。価格の種類と時点を証券会社の書面で特定することが前提妥当
買付単価・受渡日起点の直線按分
26.4+(100-26.4)×510/10,880=29.85
197-3(3)の「発行価額」「発行日」を「買付単価」「受渡日」に置き換えたもので、通達の算式そのものではない。5-2前段の「準じて評価」の一手法に過ぎず、金利変動を反映しないため客観的交換価値を大きく上回る過大のおそれ
直線按分から源泉所得税相当額を控除
償還金×25%×20.315%を控除
197-3(注)の控除。一般口座で保管され償還時に源泉徴収される銘柄に限られ、特定口座保管なら使えない可能性が高い。控除しても参考時価より高い口座種別による

数値の内訳と代用のしかたによる差は、詳細タブの2章へ

なぜ通達の算式が当てはまらないのか

発行価額が存在しない

評基通197-3(3)

算式の基礎は「発行価額」、按分の起点は「発行日」です。
ストリップス債は利付国債の元本部分を分離したもので、発行者が割引価額で「発行」した事実がなく、発行価額も分離組成日も観念できません。

上場でも参考統計値銘柄でもない

評基通197-3(1)(2)・168(1)

「金融商品取引所」は国内の免許取引所を指し(金商法2条16項)、米国債ストリップスは店頭取引です。
日本証券業協会の売買参考統計値も、外貨建ての外国債は対象外です。

5-2が受け皿になる

評基通5-2

「この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する」。
国税庁は外国上場株式についても、客観的交換価値が明らかなことを理由に5-2経由で市場価格を取り込んでいます。

通達の原文と当てはめは、詳細タブの3章・4章へ

参考時価で評価するときに揃えておくもの

1
証券会社の時価評価書・残高証明書(課税時期時点)。価格の種類(買取価格か、売り気配と買い気配の仲値か、参考時価か)と時点を明記してもらう。残高画面の参考時価は「前営業日の参考単価×参考為替」であることが多い
2
他社の同日気配または米国市場の価格データ。単一業者の買取価格(ビッド側)の最安値をそのまま使うより、仲値に近い水準の方が「時価を下回る」との指摘を受けにくい
3
課税時期のTTBまたはこれに準ずる相場(評基通4-3)。取引金融機関には証券会社を含む
4
評価の根拠説明書。評基通5-2により評価した旨、197-3(3)の算式を適用できない理由、相法22条と最高裁令和4年4月19日判決の引用
5
贈与契約書と移管完了記録。書面による贈与は契約の効力発生時が課税時期(相基通1の3・1の4共-8(2))。契約日と口座振替日を近接させ、契約日の価格とTTBで評価する

円換算と課税時期の考え方は、詳細タブの7章へ

主な確認事項

確認事項の全件は、詳細タブの9章へ

1 質問への回答(詳しく)

証券会社の参考時価を基礎に評価することは、贈与税の評価上問題ないと考えられます。本件では、それが財産評価基本通達に沿った評価です。

通達197-3(3)は「発行価額」を基礎に「発行日」から日数按分で既経過償還差益を加算する算式ですが、トレジャリーストリップスは既発の利付国債から元本部分を分離して組成されたもので、発行者が割引価額で発行した事実がなく、発行価額も分離組成日も存在しません。証券会社も「発行価格は不明」と回答するのが通常です。文言どおりの計算ができない以上、本件は評基通5-2の「この通達の定めによって評価することができない財産」に当たり、同条後段の「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する」ことになります。証券会社の参考時価(店頭市場の気配)は、この売買実例価額・精通者意見価格等に相当します。

買付単価と受渡日を算式に当てた金額(設例では約9,370万円)は、通達の算式そのものではありません。5-2前段の「この通達に定める評価方法に準じて」評価する一手法とは言えますが、取得価額を直線で額面に近づけるだけで、市場金利の変動を一切反映しません。ゼロクーポン債はキャッシュフローが満期に集中するため、残存年数がそのまま金利感応度(デュレーション)になり、金利上昇局面では価格が大きく下落します。設例の約45%の乖離は、金利上昇後のストリップス債として整合的な水準です。この金額で申告すると、相続税法22条の時価を上回る過大申告になるおそれがあります。

否認リスクについては、課税庁が「197-3(3)に準じた計算が原則」と主張する余地が残るため、ゼロとは言えません。ただし、仮にその計算が通達上の評価だと整理されたとしても、最高裁令和4年4月19日判決は、評価通達は国民を拘束せず、課税価格に算入される財産の価額は客観的な交換価値としての時価を上回らない限り相続税法22条に反しないと判示しています。通達評価額が時価を明らかに上回ることを納税者が客観資料で立証できれば、時価で申告することは同条に反しません。立証責任は納税者側にあるため、価格の性質と課税時期を証券会社の書面で固め、根拠説明書を添付することが実務上の要点になります。

2 設例の数値と試算の比較

額面200万ドル、買付単価26.4(買いコスト込み)、受渡日から課税時期まで約510日、受渡日から償還期限まで約10,880日、課税時期の参考時価20.6、TTB157円とします。

参考時価による評価
20.6 × 2,000,000 ÷ 100 = 412,000ドル
412,000ドル × 157円 = 約6,470万円
買付単価・受渡日起点の直線按分(197-3(3)の算式に買付単価を代用)
26.4 + (100 - 26.4) × 510 ÷ 10,880 = 29.85
29.85 × 20,000 = 597,000ドル × 157円 = 約9,370万円(差 約2,900万円)

代用のしかたで数字が動く

計算のしかた単価円換算(概算)説明
買付単価を基礎に、受渡日起点で直線按分29.85約9,370万円担当者が通達の算式に当てたもの。買いコスト込みの単価を基礎にしている
買付単価を基礎に、利付国債の発行日起点で直線按分30.4前後約9,550万円通達の文言「発行日」に寄せると、既経過日数が増えてさらに高くなる
証券会社の最古の参考時価を発行価額に代用し、発行日起点で直線按分28.3前後約8,900万円基礎にする価格を変えるだけで数百万円動く
買付利回り(約4.6%)で複利計算28.1前後約8,840万円直線按分は複利逓増より初期ほど高めに出る
参考時価(実勢価格)20.6約6,470万円市場金利の上昇を反映した客観的交換価値

発行価額が存在しない財産に197-3(3)を当てはめようとすると、どの数字を基礎にしても恣意性を排除できません。このこと自体が、5-2で評価すべき理由になります。

贈与税への影響(設例)

暦年課税では、課税価格4,500万円超の部分は最高税率55%です。
差額約2,900万円に対する贈与税の差は約1,600万円(相続時精算課税を選択している場合は20%で約580万円)になります。

3 通達197-3の構造と本件への当てはめ

財産評価基本通達197-3(割引発行の公社債の評価)

国税庁 法令解釈通達 第8章第2節

(1) 金融商品取引所に上場されている割引発行の公社債:その公社債が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格

(2) 日本証券業協会において売買参考統計値が公表される銘柄として選定された割引発行の公社債((1)を除く):課税時期の平均値

(3) (1)又は(2)に掲げる割引発行の公社債以外の割引発行の公社債 その公社債の発行価額に、券面額と発行価額との差額に相当する金額に発行日から償還期限までの日数に対する発行日から課税時期までの日数の割合を乗じて計算した金額を加算した金額によって評価する。

(注)課税時期において割引発行の公社債の差益金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合には、上記の区分に従って評価した金額からその差益金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額によって評価する。

(3)の基礎は「発行価額」、按分の起点は「発行日」です。「取得価額」「受渡日」の文言はありません。(注)は平成28年の改正で追加されたものです。

(1)に当たらない:「金融商品取引所」は国内の免許取引所

評基通168(1)は「金融商品取引所(金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所をいう。以下同じ。)」と定義しており、197-3(1)の「金融商品取引所」も同義と考えられます。金商法2条16項の金融商品取引所は、内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する国内の金融商品会員制法人または株式会社を指し、外国の取引所は同条26項の「外国金融商品取引所」として別の概念です。しかも米国債ストリップスは取引所に上場されておらず、金融機関・ブローカー・ディーラーを通じた店頭取引でのみ売買されます。

(2)に当たらない:売買参考統計値は外貨建て外債を含まない

日本証券業協会の公社債店頭売買参考統計値は、国債・地方債・政府保証債・財投機関債・金融債・社債等と円貨建外債を対象としており、外貨建ての外国債は掲載されていません。

(3)を文言どおりに適用できない:発行価額と発行日がない

トレジャリーストリップスは、米国財務省が発行した利付国債の元本部分と利子部分を分離し、それぞれ独立して取引できるようにしたものです。元本部分(分離元本債)には、発行者が割引価額で発行した「発行価額」も、分離組成の「発行日」も存在しません。ゼロクーポン債は「券面額を下回る価額で発行される債券」として割引債に分類されますが(タックスアンサーNo.4641)、197-3(3)の算式を動かす入力値そのものが欠けています。

国税庁の質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」は、外国上場株式を評基通169に直接当てはめるのではなく、「国内における上場株式と同様に課税時期における客観的な交換価値が明らかとなっていますから」上場株式の評価方法に準じて評価するとし、関係通達として4-3・5-2・169を挙げています。外国の市場価格は5-2を経由して取り込まれており、その理由は客観的交換価値が明らかなことにあります。

4 評基通5-2(国外財産の評価)による評価

財産評価基本通達5-2(国外財産の評価)

国税庁 法令解釈通達 第1章総則

国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することに留意する。なお、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとする。

(注)この通達の定めによって評価することができない財産については、課税上弊害がない限り、その財産の取得価額を基にその財産が所在する地域若しくは国におけるその財産と同一種類の財産の一般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額又は課税時期後にその財産を譲渡した場合における譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出した価額により評価することができる。

外国が発行する公債は、相続税法10条2項により外国に所在する財産とされ、5-2の対象です。本文は「評価することができない財産」について、(ア)通達の評価方法に準じて評価する、(イ)売買実例価額・精通者意見価格等を参酌して評価する、の2つを並べています。買付単価を使った直線按分は(ア)の一手法、証券会社の参考時価は(イ)に当たります。日々の気配値が存在し客観的交換価値が明らかな財産について、金利変動を反映しない(ア)を選ぶ合理性は乏しく、(イ)が素直な評価と考えられます。

(注)の時点修正も、本件に当てはまります。買付単価から参考時価への下落は、米国長期金利の上昇による同種のストリップス債全体の価格動向によるもので、「同一種類の財産の一般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額」の射程に入ります。ただし、日々の気配値がある財産では、時点修正より気配値そのもの(本文の(イ))を使う方が直接的です。(注)は「評価することができない財産」に限り、「課税上弊害がない限り」という前提が付いている点に注意が必要です。

5 相続税法22条の時価と通達の関係

相続税法22条は、贈与により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価」によると定め、評基通1(2)は時価を「課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」としています。

最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号)

裁判所 判例検索

評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。

同判決は、課税庁が特定の者についてのみ通達評価額を上回る価額で課税することは合理的な理由がない限り平等原則に反するとし、通達評価額と鑑定評価額との乖離だけでは合理的な理由があるとはいえないとしました。この平等原則の判示は、課税庁が通達より高く課税する場面を制約するものです。納税者が通達より低い時価を主張する場面を直接制約するものではなく、むしろ「通達は国民を拘束しない」「時価は客観的交換価値」との判示が、納税者側の時価主張の法的な土台になります。

納税者側が時価を主張するときの判断枠組み(裁決例)

国税不服審判所は、通達評価額が客観的交換価値を上回る場合には他の合理的な評価方法により時価を求めるべきとしつつ、「評価通達等により算定された土地の評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要する」としています(平成18年3月15日裁決・裁決事例集No.71)。更正の請求の場面では、請求人が自ら記載した申告内容が真実に反すること(評価額が時価を下回ること)を主張・立証する必要があるとされています(平成7年1月31日裁決・平成8年2月29日裁決)。

通達評価額が時価を上回るとして納税者側の主張が認められた裁決もあります(平成9年12月11日裁決、平成14年7月22日裁決、平成13年3月5日裁決)。いずれも土地の事例で、公社債について正面から判断した公表裁決・裁判例は確認できませんでしたが、「通達評価額が時価を上回るなら時価による」という枠組み自体は確立していると考えられます。本件では、通達の算式が文言上適用できないという5-2の整理が先に立つため、「通達を離れて時価で申告する」場面とは否認リスクの性質が異なります。

評価通達6項について

評基通6(この通達の定めにより難い場合の評価)は「国税庁長官の指示を受けて評価する」とする課税庁内部の手続規定です。
納税者が6項を直接援用して低い価額を主張することはできず、根拠は相法22条と評基通5-2に求めるのが筋と考えられます。

6 源泉所得税相当額の控除(197-3(注))

197-3の(注)は、課税時期において割引債の差益金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合はこれを控除するとしています。この控除が本件に使えるかは、保管口座の種別で変わります。

7 円換算と課税時期

円換算

外貨建て財産の邦貨換算は、原則として納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期における最終の対顧客直物電信買相場(TTB)またはこれに準ずる相場によります。課税時期に相場がない場合は、課税時期前の相場のうち最も近い日の相場を使います(評基通4-3)。質疑応答事例は、取引金融機関に証券会社やゆうちょ銀行を含み、証券会社がTTBの名称を使わない場合は、顧客から外貨を買い取るときの指標性のある相場でよいとしています。

課税時期

贈与による財産取得の時期は、書面による贈与はその契約の効力が発生した時、書面によらない贈与はその履行の時です(相基通1の3・1の4共-8(2))。贈与契約書を作る場合は契約日が課税時期になります。契約日と証券会社での口座振替日が離れると、参考時価も為替も動くため、両者を近接させ、契約日の価格とTTBで評価し、移管完了の記録(日付)を保存しておくのが安全です。

参考時価の性質

国内証券会社の残高画面や報告書の「評価額」「参考時価」は、一般に前営業日時点の参考単価と参考為替で計算され、「中途売却の際に適用される価格や為替レートとは異なる」旨の注記が付されています。成約値ではなく参考気配であり、実際の買取価格はそれより低い(ビッド側)ことが通常です。相法22条の時価は「不特定多数の当事者間で通常成立する価額」なので、単一業者の買取価格の最安値よりも、複数ディーラーの気配の仲値や米国市場の価格データで裏付けた水準の方が説得力があります。日本証券業協会の売買参考統計値も、売り気配と買い気配の仲値に基づいています。証券会社に、どの価格を何時点で示したのかを書面で明記してもらうことが重要です。

8 前提が異なる場合

(1) 発行者が割引発行した社債型のゼロクーポン債である場合

目論見書で発行価額・発行日が確定している米ドル建て社債型のゼロクーポン債であれば、197-3(3)が文言上そのまま適用でき、5-2の「評価することができない財産」とは言いにくくなります。その場合は、相法22条を直接の根拠に、通達評価額が時価を明らかに上回ることを立証する必要があり、揃える資料の質がより重要になります。公社債について納税者側の主張を正面から認めた公表裁決はないため、否認リスクはストリップス債の場合より高いと見ておくべきです。

(2) 金利が低下して参考時価が直線按分の金額を上回る局面

ストリップス債は発行価額がないため、その局面でも5-2による評価(参考時価)が筋であり、低い方を選べる性質のものではないと考えられます。社債型の割引債であれば、197-3(3)が原則で、時価が通達評価額を上回っても通達評価額で申告できるのが通常です。

(3) 受贈者が制限納税義務者に当たる場合

外国が発行する公債は国外財産です(相法10条2項)。受贈者が贈与時に国内に住所を有しない等により制限納税義務者(相法1条の4第1項3号・4号)に当たり、贈与者も一定の非居住者等である場合、国外財産は贈与税の課税対象から外れます(相法2条の2第2項)。贈与者・受贈者の住所・国籍・一時居住者の該当性の確認が必要です。

9 確認事項(全件)

10 補足(所得税・国外財産調書・精算課税・米国側)

受贈者の将来の所得税

個人間の贈与では、贈与者に所得税法59条のみなし譲渡課税は生じず、受贈者は所得税法60条1項により贈与者の取得価額と取得時期を引き継ぎます。贈与税の評価額は取得費にはなりません。平成28年1月1日以後に発行された割引債の償還差益・譲渡益は、上場株式等(外国またはその地方公共団体が発行し、または保証する債券を含む。タックスアンサーNo.1463)に係る譲渡所得等として申告分離課税(所得税15.315%・住民税5%)の対象です。

国外財産調書

受贈者が居住者で、12月31日時点の国外財産の合計額が5,000万円を超える場合、翌年6月30日までに国外財産調書の提出が必要です。設例では参考時価ベースでも該当します。提出がない場合や記載漏れがある場合、関連する過少申告加算税が加重されます。

相続時精算課税との関係

相続時精算課税を選択すると、贈与時の評価額がそのまま相続税の課税価格に加算されるため(相法21条の15)、評価額の選択は将来の相続税にも直結します。暦年課税の場合、令和6年以降の贈与は相続開始前7年以内の加算(経過措置あり)の対象です。

米国側の贈与税

贈与者が米国の非居住外国人であれば、米国の贈与税は無形資産(証券)には課されません(内国歳入法典2501(a)(2))。贈与者または受贈者が米国市民・米国居住者に当たる場合は、別途専門家への確認が必要です。

申告書への添付

公社債に法定の評価明細書はありません。贈与税申告書第一表(精算課税の場合は第二表と選択届出書)に、証券会社の時価評価書、複数業者の気配、TTB、銘柄情報、評価の根拠説明書を任意添付します。

11 出典